床屋さんはすごい!/ 海外で気づいた「日本の当たり前」という競争力

写真:Vitaly Gorbachev / Pexels

海外に行くと、日本では当たり前だと思っていたことのありがたさに気づくことがあります。私にとって、その一つが床屋さんでした。

そしてこの話は、実は中小企業の強みをどう見つけ、どう価値として伝えるか、という話にもつながっているように思います。

私は、ヘアスタイルに強いこだわりがある方ではありません。流行の髪型にしたいわけでも、細かく注文をつけたいわけでもない。ただ、清潔に、さっぱりと、普通に整えてもらえれば十分です。

日本では、それが自然にできます。近所にいつも行く床屋さんがあり、椅子に座れば、何も言わずに、いつものように刈ってくれる。前髪、耳まわり、襟足、もみあげ、全体のバランスまで、違和感なく仕上げてくれる。考えてみると、これはかなりすごいことです。

海外では、この「普通に整う」が、必ずしも普通ではありませんでした。

インドで髪を切ったときは、仕上がりがいわゆる「ざんぎり頭」のようになりました。アメリカの床屋では、バリカンの扱いに慣れていてスピード感はあるものの、切った髪がシャツの中にどんどん入ってくる。日本では、クロスのかけ方や最後の払い方まで含めて「散髪」だったのだと、そのとき初めて実感しました。

バルセロナでも、最初は地元の床屋に入りましたが、どうにも落ち着かない。しばらくして日本人の美容師がいるヘアサロンを見つけてからは、安心して通うようになりました。言葉の問題だけではありません。「この人は自分の髪質や頭の形をわかって切ってくれる」という安心感がありました。

もちろん、世界には優れた理容師・美容師がたくさんいます。フェード、カーリーヘア、アフロヘア、カラー、前衛的なデザインなど、欧米の方が強い分野もあります。だから、「日本が世界一」と言いたいわけではありません。

ただ、日本の床屋さんや美容師には、平均点の高さがあります。すごいのは、特別な名店だけではないことです。比較的普通の店でも、一定以上の品質が出る。この安定感こそ、日本のサービスやものづくりの強みなのではないでしょうか。

その背景には、技術の積み重ねがあります。理容師・美容師は資格を取り、店に入ってからも先輩の技術を見て、練習しながら腕を磨いていきます。耳まわり、襟足、もみあげ、前髪、毛量の調整。最後の数ミリを整える。その積み重ねが、店を出たときの「なんとなくきれい」を生んでいるのだと思います。

そして、この品質を支えているのが道具です。

日本の理容師・美容師にとって、ハサミは単なる道具ではなく、技術の一部です。用途に応じて複数のハサミを使い分け、日本製のシザーを好んで使います。

私がお世話になっていたバルセロナの美容師は、一時帰国の際に日本の専門業者にハサミの研ぎや調整を依頼していました。海外で働いていても、道具の状態は日本で整える。これはとても象徴的です。道具を良い状態に保つことまで、技能の一部なのです。

強みは、ハサミという製品だけにあるのではありません。選び方、使い方、手入れの仕方、それを支える職人や専門業者まで含めて、一つの価値になっています。

良いハサミを使えば、最後の数ミリまで仕上げられる。その違いが分かるようになると、職人自身の目もさらに厳しくなる。そして、その品質に慣れた顧客も、より高い仕上がりを求めるようになる。道具が技術を磨き、技術が顧客の目を育て、顧客の要求がまた技術を磨く。そんな循環があるように思います。

面白いのは、これほど高い品質がありながら、日本の床屋さんが必ずしも大きくグローバル化しているわけではないことです。

バルセロナの日本人美容師の例を考えると、海外でも需要はあります。日本式の丁寧なカットや仕上げの違いを評価する顧客層は、一定数います。実際、この美容師さんのサロンでも、顧客の7割以上は現地の方でした。

ただし、「品質が高いこと」と「海外で売れること」は同じではありません。誰がその価値を評価するのか。どの価格なら成立するのか。日本式の品質を現地で再現できるのか。海外展開とは、単に良いものを持って行くことではなく、その良さが伝わる市場、価格、言葉、提供体制に翻訳することなのだと思います。

この話は、理美容業だけに限らない気がします。

日本の中小企業にも、同じような強みがたくさん眠っているのではないでしょうか。自社では当たり前だと思っている加工精度、納期対応、微細な調整、現場の段取り、道具の手入れ、顧客ごとの柔軟な対応。こうした強みは、決算書にも会社案内にもなかなか現れません。長年働いている社員にとっては「普通のこと」だからです。

外部の経営支援者ができることの一つは、こうした「社内では当たり前になっている強み」を見つけ直すことだと思います。それが誰にとって価値になるのかを考え、人材育成、道具、品質管理、顧客との関係まで含めて、一つの競争力として言語化する。

日本の床屋さんはすごい。しかし、その強さは、単に職人の腕が良いからではありません。道具、教育、品質基準、顧客との関係までを含めた「仕組み」が強いのです。

同じものは、日本の中小企業の中にもたくさん眠っているのではないでしょうか。

自分たちにとっての「当たり前」は、自分たちにはなかなか見えません。だからこそ、海外を見る。異業種を見る。外部の人に見てもらう。

そこで初めて、「普通にやっていたこと」が、実は競争力だったと気づくことがあります。